今年の最低賃金改定と「社会保険加入による年収106万円の壁」について
暑中お見舞い申し上げます。障害年金サポート調布の福間です。
厚生労働省の中央最低賃金審議会は、8月4日(月)に今年度の最低賃金の目安を全国加重平均で時給1,118円とすることで決着しました。現在より63円(時給)の引き上げで,伸び率は6.0%となります。
今回は、この決定した最低賃金が、「社会保険加入による年収106万円の壁」にどのような影響を与えるかについて考えてみたいと思います。
まず、問題は、社会保険に加入して働いている労働者の配偶者がパート勤務で働く場合、一定の収入を超えると扶養から外れて、社会保険料の負担が増えることで手取りが減少することです。いわゆる年収の壁(社会保険版)、106万円の壁が存在し、『働き控え』が発生することです。
改めて、社会保険加入の原則要件を確認すると
社会保険の加入義務が生じるのは次の2つの要件を満たす労働者です。
① 労働時間
1週の所定労働時間が一般社員の4分の3以上
② 労働日数
1月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上
しかし、社会保険加入要件には特例があり、『働き控え』、106万円の壁はこの特例制度です。
『特定適用事業所』に勤務する労働者について、次の要件を満たす労働者は社会保険に加入する義務があります。
① 週の所定労働時間が20時間以上であること
② 所定内賃金が月額88,000円(年間106万円)以上であること
③ 学生でないこと
④ 2か月間以上雇用されること
この『特定適用事業所』の要件の規模要件は、現在は、51名以上となっており、今後規模要件の縮小(適用事業所の拡大)が決まっています。また、今年6月に年金制度改革法が成立して、この②賃金要件は撤廃が決定しましたが、施行時期は未定となっています。
今回の全国加重平均:時給1,118円で週20時間働いた場合の賃金を計算してみます。
年間:1,118円×20時間×52週間=1,162,720円 > 1,060,000円
月額:1,164,720円÷12月=96,893円 > 88,333円
今回の全国加重平均:時給1,118円では、所定内賃金88,000円(要件②)を超えて社会保険加入の義務が生じることになります。
各都道府県は、国の審議会の示した目安を踏まえて審議会を開き、都道府県ごとの最低賃金を決定することになっています。新聞の報道によると全ての都道府県で最低賃金が1,000円を超える見込みであるとのことです。私の試算ですと、都道府県別の最低賃金は1,015円程度となるようです。仮にこの賃金額で、週20時間働いた場合の賃金を計算すると次の通りです。
年間:1,015円×20時間×52週間=1,055,600円 < 1,060,000円
月額:1,055,600円÷12月=87,966円 < 88,333円
全国の最低賃金では、所定内賃金88,000円(要件②)に若干届かないことになります。
最低賃金上昇の影響
使用者側は、今回の最低賃金が6%上昇することによって、社会保険加入の義務が課され、それにより、社会保険料の事業者負担分(厚生年金9.15%,健康保険5.75%程度合計15%程度)が新たに加算されることになります。賃上げ余力の乏しい中小事業者にとっては厳しい経営課題となる(日本商工会議所)。人件費高騰の価格への転嫁や生産性向上を図る必要があります。
労働者側では、更に働き控えが加速するように思われます。
労働者としてのひとつの考え方
標準報酬月額88,00円の労働者負担の厚生年金保険料は、8,052円、健康保険料(東京都・40歳以上)は、5,060円です。国民年金保険料は、17,510円です。
厚生年金保険料は、事業主と労働者との折半なので、国民年金保険料の半分以下です。
上記の保険料は、国民年金第3号被保険者には納める必要のない保険料です。
国民年金第3号被保険者から厚生年金の被保険者となる労働者(特に60歳以上の労働者)は、厚生年金を払うことによって、報酬比例部分が増えることは当然ですが、厚生年金保険料には定額部分(経過的加算)の加算もあることも考慮すべきです。
経過的加算は上限480か月ですが、この上限月数での誤解が「国民年金との合計で480か月になるまで」というものです。実際は、国民年金の加入期間は無関係で、厚生年金加入部分が480か月になるまで経過的加算は増えます。
国民年金第3号被保険者期間の長い方は、厚生年金加入期間が長くなることで報酬比例部分だけでなく、この経過的加算の恩恵を享受することができます。
結果として、国民年金の満額以上の額を厚生年金の経過的加算で受給することも可能となります。
2025年8月6日