『障害厚生年金の支給調整』について
都内の紅葉が見ごろを迎え、銀杏の葉を踏みしめて散歩する季節となりました。皆さんお元気でしょうか。障害年金サポート調布の福間です。
10月5日付けコラムに記載した年金の受給資格を得るために必要な保険料の納付期間を25年から10年に短縮する改正年金機能強化法が11月16日の参院本会議にて、全会一致で可決、成立しました。改正法は来年8月に施行され、10月から約64万人が新たに年金を受けられるようになる見通しとのことです。
さて、今回から、労働者である厚生年金の被保険者が病気又はけがをして働くことができなくなり、その後、障害厚生年金を受給した場合の他の所得補償制度との支給調整について、3回でまとめてみたいと思います。
まず、障害厚生年金の要件は、次の3点です。
1.障害のきっかけとなった傷病に係る初診日において厚生年金の被保険者であること
2.障害認定日において、その傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態にあること
3.保険料納付要件を満たすこと
です。
病気又はけがのきっかけは、次の二つに分類されます。業務外の病気やけが(私傷病)の場合と業務上の病気やけがの場合です。私傷病の場合と業務上の傷病の場合の流れを整理すると次のようになります。
1.業務外の病気・けが(私傷病)の場合
病気・けが発症 → 年休・欠勤・休職 → 解雇・自然退職
所得補償:a健康保険(傷病手当金)、c障害厚生年金
2.業務上の病気・けがの場合
病気・けが発症 → 労基法19条(解雇制限) → 民法536条2項
所得補償:b労災給付(休業補償給付)、c障害厚生年金、使用者(損害賠償金、慰藉料等)
1.業務外の病気・けがの場合の支給調整(健康保険と障害厚生年金)は次回に、2.業務上の病気・けがの場合の支給調整(労災給付と障害厚生年金)は3回目に書く予定です。
今回は、a健康保険(傷病手当金)とb労災給付(休業補償給付)の支給について考えてみたいと思います。けがの場合は、初めて医者に掛かるときに既に労災と判断されるケースが多いと思われますが、病気の場合は、労災と認定されるまで時間がかかりその間に健康保険から傷病手当が支給されているケースがあると想定されます。その場合には、既に受給している傷病手当金は休業損害から控除されるか否かの問題が出てきます。
これに対して、裁判例では次の通り判示しています。「傷病手当金等は、業務外の事由により疾病等に関する保険給付として支給されるものであるから、上告人保有分(傷病手当金等)は、不当利得として本件健康保険組合に返還されるべきものであって、これを上記損害賠償の額から控除することはできないというべきである(東芝うつ病事件・最高裁判平成26年3月24日、三共自動車事件・最小判昭和52年10月25日)。」このように、健康保険からの傷病手当金は不当利得として健康保険組合に返還すべきものと判示しています。
2016年11月23日