民法改正による労働基準法への影響

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

障害年金サポート調布の福間です。

民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行期日は、令和2(2020)年4月1日とされています。これに伴い、予てより労働政策審議会労働条件分科会において審議されていた賃金等請求権の在り方に関して、令和元年12月27日に労働政策審議会より厚生労働大臣に「賃金等請求権の消滅時効の在り方について」(建議)がなされました。

今回はこの内容をまとめてみたいと思います。

今回の建議は次の内容となっています。
〇賃金請求権の消滅時効期間は、民法一部改正法による使用人の給料を含めた短期消滅時効廃止後の契約上の債権の消滅時効期間とのバランスも踏まえ、5年とする

〇起算点は、現行の労基法の解釈・運用を踏襲するため、客観的起算点を維持し、これを労基法上明記する

〇ただし、当分の間、現行の労基法第109条に規定する記録の保存期間に合わせて3年間の消滅時効期間とすることで、企業の記録保存に係る負担を増加させることなく、未払賃金等に係る一定の労働者保護を図るべきである。そして、改正法施行後、労働者の権利保護の必要性を踏まえつつ、賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等を検証し、必要な検討を行うべきである(一部略)

〇賃金請求権以外の請求権の消滅時効期間について
 年次有給休暇請求権、災害補償請求権、退職手当の請求権、その他(帰郷旅費、退職時の証明、金品の返還)は現行の消滅時効期間を維持すべき

そもそも、どのような経緯から、労働政策審議会で議論が始まったのでしょうか。以前整理したものを次に掲載しておきます。

平成29年7月12日厚生労働省の労働政策審議会において、労働基準法115条(時効)の見直しの議論が始まりました。

現行法では次の通り規定されています。労働基準法115条(抄)『この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合において、時効により消滅する。』

これに対して、民法の一部を改正する法律(平成29年6月2日公布)では次の通り規定されることとなりました。

社会経済情勢の変化に鑑み、消滅時効の期間の統一化等の時効に関する規定の整備、法定利率を変動させる規定の新設等を行うもの。消滅時効については、
1.民法における職業別の短期消滅時効(1年の消滅時効とされる「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」も含む)を廃止し、
2.一般債権については、
〇債権者が権利を行使することができることを知った日から5年間行使しないとき
(主観的時効)
〇権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(客観的時効)

 に時効によって消滅することと整理されました。

つまり、現行の民法は、賃金の請求権については時効を1年間と規定しているが、現行労働基準法は「1年は労働者にとって短すぎる」との労働者保護の観点から、賃金の請求権の時効を「2年」とする規定となっています。年次有給休暇の時効の2年もここに根拠があります。

今回の民法改正は、時効が5年と長くなるのに対して、労働基準法115条がそのまま残れば、労働者保護を目的とする労働基準法115条が賃金について2年と短くなり、民法の水準から引き下げられることになり、労基法の趣旨と矛盾することになってしまいます。

以上のような経緯から、労働政策審議会で議論が始まったとされています。

今後、未払賃金の消滅時効期間の問題は、対応を間違えると経営者にとって経営を左右する問題となる可能性があると思われます。

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