就労パスポート
こんにちは、『障害年金サポート調布』の服部純奈です。
連日、新型コロナウィルスが世界で猛威を振るっています。前回のコラムを投稿した際は、数ヵ月後にこんなことになるとはあまり想像がつきませんでした。東京オリンピックももちろんですが、我々社会保険労務士は、各企業様とも深く関わりますので、厳しい状況を目の当たりにして、この行く末が気にかかります。
毎日気の抜けない生活で、「コロナ疲れ」と言う言葉も聞かれるようになりました。そろそろ疲れが出てくる方も多いと思いますが、予防には気を抜かずに大規模感染を防ぎましょう。
さて、この世界情勢ですが、一旦コロナとは離れて本日は就労パスポートについてご紹介したいと思います。
去る昨年11月15日、厚生労働省ホームページで、「就労パスポート」が公開されたのをご存知でしょうか。Excelファイルでダウンロードできるようになっています。
働く障害者が増えている一方で、一般的に精神障害の場合は職場定着に困難を抱えるケースが多く見られ、職場定着率が低くなる傾向があるとのことです。自分の特徴をうまく職場に伝えられず、職場も必要な配慮をできない。結果、ミスマッチが生じているように見え、退職に繋がってしまうというケースが多いようです。
就労パスポートとは、多様な障害特性のある精神障害、発達障害、高次脳機能障害を主な対象としています。本人と企業、支援機関が就職・職場定着に特化した情報(例えば自分の特徴やアピールポイント、職場に配慮を希望すること等)を共有して利活用することを目的として作成されたツールです。
厚生労働省のガイドラインでは、以下のようなメリットが紹介されています。(抜粋)
【本人にとってのメリット】
- 自分自身の特徴などの理解をより深めるきっかけを得る
- 事業主に伝えたい自分の特徴や希望をわかりやすく伝える具体的な伝達手段
- 支援者からの的確な説明を受けることで、自分の状態を支援者が理解していると感じられ、支援者との信頼関係の形成ができる
- 就職、職場定着に向けた課題の再確認ができる
【事業主にとってのメリット】
- 障害が外から見えづらいというわかりにくさからくる採用への不安感を払拭
- 本人の体調の変化のサインを把握し、本人がストレス、疲労を訴える前の段階で状態の変化を把握することができる
【支援機関にとってのメリット】
- 支援のポイントをつかみやすくなる
- 支援者間の情報共有ツールとして活用できる
就労パスポートは以下のような項目で構成され、支援機関(ハローワーク、福祉施設などの職員、その他就労支援者等)の支援を受けて作成します。
1.職務経験
今までの職場経験、福祉サービス事業所などにおける就職準備のためのプログラムなどで経験した職務、作業、期間など
2.仕事上のアピールポイント
得意なこと、自分の強みが発揮できそうな職種、作業内容、培ってきたスキルなどを記載
3.体調管理と希望する働き方
・ストレス、疲労(ストレスなどを感じやすい状況、場面、ストレスなどのサイン、対処方法)
・通院のための休暇(定期的な通院がある場合に、頻度、曜日、時間帯などを記入)
・服薬管理のための配慮(服薬を管理するために職場に希望する配慮がある場合など)
・希望する働き方(1日の勤務時間、休憩の取り方、業務量、作業内容、方法などの調整)
4.コミュニケーション面
自分の特徴についてあてはまるものをチェックボックスにチェックを入れ、補足があれば自由記述欄に記載
例)
業務中の仕事に関する会話
☐相手や場面に応じて臨機応変に対応できる
☑やり方が決まっているものであれば対応できる
自由記述欄に:「電話対応は臨機応変なやりとりは苦手ですが、伝える内容が決まっているものであればマニュアルを元に対応することができます」等記載
職場内の人との会話
☐相手に対して自発的に話しかけられる
☐話しかけてよいタイミングが具体的にわかれば話しかけられる
☑慣れるまでの間は声をかけてもらえた方が話しやすくなる
5.作業遂行面
本人の特徴について、チェックボックスにチェックを入れ、補足があれば自由記述欄に記載
例)
指示内容などの理解 > 指示内容
☑判断基準を具体的に伝えてもらえるとよい(「いつまで・何を・どの程度」など具体的に示してもらえるとよい)
☐メモが追い付くスピードで話してもらえるとよい
☐ポイントを具体的・簡潔に示してもらえるとよい(口頭説明では「ここがポイント」と伝えてもらう)
☑一度の指示は限定してもらえるとよい
指示内容などの理解 > 理解しやすい方法
☐口頭説明
☑見本の提示
☐文章での説明
☐写真・図・絵での説明
☑作業手順書・マニュアル
就職後の自己チェック
4.コミュニケーション面、5.作業遂行面の記載内容のうち、就職後に変化したと感じる項目を記入
参考:支援機関
本人が利用している支援機関名、医療機関、支援内容等を記入
なお、自分自身の特徴をより理解してもらう上で、就労パスポートの項目はひととおり記載し提示することが好ましいですが、本人が記載を望まない項目については無記載で良いことになっています。
また、一旦作成したら終了ではなく、就職活動や就職後の職場において体験したことをもとに、以前書き込んだ内容を更新していくことで、より利活用できるツールになっています。
今まで、自分の状態や特徴を伝えるための共通のツールがなく、なかなか職場とご本人との理解が進まなかったケースでも、この就労パスポートによって伝えやすくなったのではないでしょうか。
障害特性の如何に関わらず、多様な人材が定着して就労できる世の中へ一歩前進となることを願っています。
2020年3月18日