「社会保険加入による年収の壁」について
皆様お元気でしょうか。障害年金サポート調布の福間です。
社会保険に加入して働いている労働者の配偶者がパート勤務で働く場合、一定の収入を超えると扶養から外れて、社会保険料の負担が増えることで手取りが減少する、所謂年収の壁(社会保険版)が存在し、『働き控え』が発生することが問題となっております。
今回は、この扶養配偶者が働く場合の年収の壁の意味、今後の制度変更の可能性、働き方の予想について考えてみたいと思います。
ⅰ 社会保険加入の原則要件
社会保険の加入義務が生じるのは次の2つの要件を満たす労働者です。
① 労働時間
1週の所定労働時間が一般社員の4分の3以上
② 労働日数
1月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上
通常、1週30時間以上および1月の所定労働時間が15日以上業務に従事する労働者は名称の如何を問わず、社会保険(健康保険、厚生年金)の被保険者となります。
協会けんぽの被保険者に被扶養者がいる場合、協会けんぽが被扶養者の認定をした場合には、被扶養者となります。この被扶養者は、配偶者、子、孫、兄弟姉妹、父母、祖父母等の直系尊属、これ以外の3親等内の親族、内縁関係の配偶者の父母及び子とされています。
この場合の年収要件が年間収入130万未満円(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)かつ、同居の場合は、原則として収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満、別居の場合は、収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満であることとされています。
健康保険の扶養となるための年収要件:年間収入130万円未満
ⅱ 社会保険加入要件の特例
上記の原則に対して、『特定適用事業所』に勤務する労働者について、次の要件を満たす労働者は社会保険に加入する義務があります。
① 週の所定労働時間が20時間以上であること
② 所定内賃金が月額88,000円以上であること
③ 学生でないこと
④ 2か月間以上雇用されること
この『特定適用事業所』の要件の規模要件は、平成28年10月に501名以上、令和4年10月に101名以上、令和6年10月以降は、51名と適用対象は拡大しており、今年の財政検証で厚生年金の財政が安定したこともあり、今後も社会保険加入拡大は続くと思われます。
ⅲ 今後の社会保険加入要件の特例制度変更について
次に『特定適用事業所』の社会保険加入要件の①と②の二つの要件について、考えてみます。
② 所定内賃金が月額88,000円以上であること
この月額88,000円は、厚生年金保険料の標準報酬月額の最低金額88,000円(保険料16,104円)です。しかし、健康保険料の標準報酬月額表には、その下に83,000円未満、 73,000円未満、63,000円未満のランクが収入に応じて設定されているのに対して、厚生年金保険料の標準報酬月額は88,000円(報酬月額93,000円未満)が最低金額ランクです。
この金額設定は、国民年金の本年度保険料が16,980円であることとの均衡・バランスに配慮した数値であると考えられます。つまり、厚生年金保険の保険料は、原則として定額部分(国民年金部分)と比例報酬部分の2種類の保険料であるのに対して、国民年金保険料は国民年金部分の保険料であるからです。
① 週の所定労働時間が20時間以上であること
近年、最低賃金の上昇が話題となっています。この最低賃金の上昇に伴って、①所定時間要件を満たすと自動的に②の賃金要件を超える地域が多くなってきました。
東京都の場合:最低賃金1,163円
1,163円×20時間×52週間÷12月=100,793円 > 88,000円
所定内賃金月額88,000円で週20時間勤務の時給を計算すると1,015円となります。
88,000円×12月÷52週間÷20時間=1,015円
今後、最低賃金の上昇によって、時給1,015円を超えると②の要件を超えることになります。
上記のことから、①②の要件は二重には必要がないということになります。
賃金要件によって、地域によって社会保険の加入義務が異なるのは違和感があります。
報道によると『特定適用事業所』の事業所の規模要件と②所定内賃金要件を撤廃する方向で検討されているようです。『被用者保険の適用の更なる拡大』は財政検証時においても主要な実施項目とされております。現在実施されている社会保険料の壁対策として『年収の壁・強化支援パッケージ』の施策の終了後、2026年度以降に事業所の規模要件と収入要件が撤廃される可能性はあると考えられます。
扶養配偶者が働く場合の社会保険加入義務は、下記の3つの要件を満たす場合となります。
① 週の所定労働時間が20時間以上であること
② 学生でないこと
③ 2か月間以上雇用されること
このような制度変更があった場合、週20時間以上働く扶養配偶者は原則として社会保険に加入して収入に応じた社会保険料を支払うことになり、雇用保険の失業給付を受給している期間の収入要件として年間130万円未満が残るということになるように考えられます。
ⅳ 今後の働き方
現在は、社会保険に入りたくない人についての意見が目立つように感じます。社会保険に自ら加入することによるメリットがキャリア形成上も強調されるべきと考えます。
厚生年金に加入することによって、労働者の生活保障は手厚くなります。老後の老齢年金も基礎年金(国民年金)だけでなく、厚生年金の保険料を払うことによって比例報酬部分(老齢厚生年金)の平均標準報酬額や加入期間の月数が増えて、老後資金を増やすこともできます。また、不幸にして障害を負った場合に、障害厚生年金を受給できる可能性も出てきます。
厚生労働省統計によると国民年金の第3号被保険者は令和3年度末で763万人とされています。この第3号被保険者の方の中には、諸事情のため、短時間勤務を選択せざるを得ない方もいますが、中にはスキルや技能を持っていて、通常より高い賃金で働くことができるパートタイマーの労働者も存在するはずです。このような方が週20時間以上働くことによって、キャリアも継続できるし、厚生年金記録の継続・拡大が可能となるはずです。
以前のコラムで専門家の方の次の意見を紹介しました。
第3号被保険者制度については、「しばしば、専業主婦優遇として批判されるが、第3号の98%は女性であり、女性を非就業あるいは低収入の就業に押しとどめることで、キャリア形成の障害にもなっている。見直しは、男女平等等の観点からも必須だ。」
年金は長期にわたって保険料を納める制度です。一時の損得だけではなく、自分のキャリア形成、より多くの老齢年金給付や補償が得られるよう考えるべきと考えます。
2024年11月27日